抄録
第二言語読解では,第一言語に比べ意味抽出や構文解析などの低次言語処理の認知的負荷が大きいとされる.とすれば,推論などの高次処理に供すべき認知資源が制限されると考えられる.本研究では日本人中級英語学習者を対象に実験を行った.8文で構成される英文を用意し,第6文に対して前半部分4文に矛盾が含まれる条件とそうでない条件を設定した.第5文はフィラー文である.実験1で日本人中級英語学習者を対象に第6文の読み時間を計測したところ,条件間に有意差はなく,矛盾検知は示唆されなかった.そこで,実験文から第5文を除いたところ,矛盾条件の第6文の読み時間が,内容一致条件より有意に長くなるという結果を得,矛盾検知が示唆された. このことから,文章中の矛盾の検知は矛盾する文が互いに前後して現れる場合に限られると考えられ,中級英語学習者が読解中に検索できる記憶量は処理中の文の直前の一文程度であると示唆された.