抄録
視対象の呈示前に空間手がかりによってその近傍に注意が向けられると,対象の主観的位置が注意焦点から離れるように錯誤される場合 (注意反発) と注意焦点へ近づくように錯誤される場合がある (注意誘引).本研究はこれら2種類の誤定位が生じる際に,空間表象がどのように形成・保持されているのかを検討した.実験では,空間手がかりが呈示された後に,標的とプローブ刺激が周辺視野の上下に呈示された.注意の影響を調べるために手がかり―標的間SOA (50 – 1500 msec) が,保持期間の影響を調べるために標的―プローブ間SOA (0 – 2000 msec) が操作された.実験参加者は標的とプローブの相対位置判断を求められた.結果として,両SOA条件間に交互作用はなく,それぞれ個別に注意反発と注意誘引の量に影響した.この結果は,注意によって変調された知覚的な空間表象が形成され,それがそのまま記憶過程に保持される中でさらに注意によって変調されることを示唆する.