抄録
記銘語から想起されるエピソードの情動価を評定させる方向づけ課題を用いた2つの実験を行い,エピソードの情動を処理する能力である情動知能の下位能力(情動の認識と理解,情動の表現と命名,情動の制御と調節)のいずれが偶発再生率を規定するのかを検討した。実験_I_では,過去のエピソードを想起させ,情動の認識と理解が,エピソードの情動価が中立の場合に再生率を規定する可能性の高いことが示された。実験_II_では,未来のエピソードを想起させ,情動価が不快である場合において,情動の認識と理解が再生率を規定していることが明らかになった。これらの結果は,エピソードの情動の強さが中程度の場合に,情動処理の個人差が反映されやすいこと,そして,情動知能の違いによって,記銘語に関するエピソードの情動の差異性が異なり,それが検索手がかりの有効性に反映される可能性を示した。