抄録
本研究では、顔の全体情報の言語化は後の再認を妨害しないという仮説を検証した。一度記憶した顔を言語化すると、後の再認が困難になることがある(言語陰蔽効果)。顔の再認には全体情報が重要とされるが、言語化によって部分処理過程が活性化するために言語陰蔽効果が生じると説明されている。この説明に基づくと、顔の全体情報の言語化は後の再認を妨害しないと予測されるが、先行研究の結果は一貫していない。先行研究は、全体情報の言語化にターゲット顔の印象や職業を記述させるという方法を取ってきたが、この方法では、部分処理が活性化される可能性がある。本研究では、全体情報の言語化として、顔の布置情報を示す形容詞の評定を行わせた。実験の結果、通常の言語化条件では言語陰蔽効果が生じたが、全体情報言語化条件では生じなかった。この事から、言語化は必ずしも顔の再認を妨害しないことが示唆される。