抄録
就労現場の環境を,高齢者向けにデザインするために,加齢による認知特性の変化が就労作業にどのように影響するのかを調べた.まず,作動記憶,注意,タスクスイッチングについて認知機能を検査し,それぞれの機能が一つだけ低下した3群(WM群,AT群,TS群),および全てが比較的高い群(全高群)を選別した.就労作業の例として,ビルの中央管理室を調査し,中央監視作業のシミュレータを作成した.全高群を対照群として他の各群の作業パフォーマンスを調べたところ,WM群にとって点検作業の負担が高いことが明らかになった.またこれに対して,作動記憶への負担を減らす画面デザインの指針が得られた.一方,エラー率は,TS群が有意に高かった.以上より,高齢者の就労環境を整える上で,加齢による認知特性の変化を考慮し,その補償方法を講じることには意味がある.