抄録
物体の心的回転および回転運動の知覚において,物体固有の参照枠あるいは環境中心の参照枠が重要な役割を果たすことが知られている.本研究では,これらの空間参照枠の競合により,時間の経過に伴って回転軸が切り替わって知覚される多義的回転運動が生じることを報告する.刺激として,回転軸が曖昧で,最小回転を実現する物体固有の回転軸とともに垂直あるいは水平の環境軸を可能な回転軸として含む仮現運動刺激を用い,一定の時間間隔において各参照枠での回転運動が知覚された割合を測定した.その結果,環境軸回りの回転角度が一定であれば,物体固有軸回りの最小回転量を大きくしていくに従って環境軸回りの回転運動が知覚される割合が多くなり,その効果は水平軸より垂直軸の方が多大であった.この競合事態における垂直軸の優位性は心的回転においても生じるものであり,回転イメージ生成と仮現運動知覚に共通のメカニズムが関与すること示唆している.