抄録
ヒトの言語が持つ大きな特徴のひとつとして,文の中に文が埋め込まれている階層的な複文構造を取り得る,という点が挙げられる.このような階層的処理を行う脳内メカニズムの詳細は明らかになっていない.本研究では中央埋込み文(例.「CをBにしかられたAはけとばした」),左分枝文(例.「BにしかられたAはCをけとばした」),等位接続文(例.「AはBにしかられてCをけとばした」)の3種類の文刺激を被験者に提示し,それを理解している間の脳活動を機能的核磁気共鳴画像法によって計測した.さらにこの時,主節もしくは従属節の動詞直前に副詞(「はげしく」)を挿入することで節の切り替わる位置を変化させた.その結果,左背外側前頭前野は階層的構造を持つ中央埋込み文で活動が増加し,さらに節のシフト位置が遅れることで活動低下が遅くなることが示された.これは同部位が複文理解における階層的な処理に関与していることを示唆している.