抄録
本研究では分割記述(Macchi, 1995, 2000)に基づく「予防接種問題」(伊藤, 2006, 2007)とそれに基づかない「タクシー問題」(Tversky & Kahneman, 1980)を用いた。両問題を構成する基本的な1次的量化課題,加法的合成を伴う2次的量化課題,ベイズ型推論課題のいずれにおいても「予防接種問題」の方が「タクシー問題」よりも大学生の正判断率が有意に高く,分割記述の影響が見られた。基本的な1次的量化課題や加法的合成を伴う2次的量化課題における分割記述の影響がこれまで十分に検証されていなかったのは,これまではベイズ型推論課題の難しさに焦点が当てられていたために,課題解決の前提となる,より低次の確率量化の分析には十分な焦点が当てられていなかったからではないだろうか。今後は認知システムに内在する難しさそのものを解明すべく,内容を可能な限り単純化した課題を用いることも必要だろう。