抄録
本研究では、否定的な体験の記憶に対する肯定的な語り直しが、思考統制能力の高低によって、自伝的記憶そのものに与える影響の差異を検討した。80名の参 加者は、TCAQへの回答と、過去のネガティブな体験(主に嫉妬体験)を語るよう求められた。その後、参加者は単純反復再生群、転換的語り直し群、語りな し群(統制群)の3群に分けられた。反復再生群の参加者は、1日おきに2回出来事を正確に再生し、転換的語り直し群の参加者は出来事をポジティブなかたち で語り直した。原語りから1週間後、参加者は最初に語った出来事とできるだけ同じ内容となるように記憶を再生するよう求められた。実験の結果、思考統制能 力の低い参加者は、転換的語り直しを行うことで、ネガティブな記憶そのものを有意に減少させていた。一方、思考統制能力の高い参加者は、単純反復再生を行 うことでネガティブ価を減少させていた。