アイテム法による指示忘却パラダイムを用いて,顔刺激において指示忘却が認められるのか,喜び顔と怒り顔とで指示忘却効果に違いは認められるのかを検討した。実験参加者は,32人の人物の喜び顔または怒り顔からなる刺激リストを学習した。リストの半数は顔刺激提示後に「忘れろ」と忘却手がかりが,残り半数は顔刺激提示後に「憶えろ」と記銘手がかりが提示された。リスト学習後,全ての顔刺激に対する再認テストが行われた。再認テスト時の顔刺激はすべて真顔であった(異表情再認課題)。その結果,忘却手がかりが提示された刺激は記銘手がかりが提示された刺激よりも記憶成績が悪いという指示忘却効果は,喜び顔で認められたのに対し,怒り顔では認められなかった。この結果は,顔刺激の感情価が指示忘却効果の生起に関わることを示唆する。