抄録
本研究では文字サーチ課題を用いて,文字からの音韻情報抽出過程を検討した。実験参加者は先にカタカナで呈示される音韻を持つ文字がその後に呈示されるランダムに配置された8文字の文字セット内に存在するかどうかを判断するよう求められた。文字セットは漢字セット,仮名セットの2種類からなり,さらに,発音と漢字の対応から,当該発音から想起されうる漢字の種類の多寡によって,VH条件とVL条件とが設定された。実験の結果,仮名セットにおいてはVL条件,VH条件の反応時間に差異は認められないが,漢字セットにおいては,当該発音から想起されうる漢字種類が多いVH条件で反応時間が長いことが示された。これは,漢字の音韻情報抽出に形態表象と音韻表象との相互作用が重要な役割を担っていることを示していると解釈された。