抄録
伊藤(2012,認知心)に引き続き,アイテム法による指示忘却パラダイムを用いて,顔刺激において指示忘却が認められるのか,顔刺激の情動価によって指示忘却効果に違いは認められるのかを検討した。実験参加者は,32人の人物の怒り顔または真顔からなる刺激リストを学習した。リストの半数は顔刺激提示後に「忘れろ」と忘却手がかりが,残り半数は顔刺激提示後に「憶えろ」と記銘手がかりが提示された。リスト学習後,全ての顔刺激に対する再認テストが行われた。再認テスト時の顔刺激はすべて喜び顔であった(異画像再認課題)。その結果怒り顔において,忘却手がかりが提示された刺激は記銘手がかりが提示された刺激よりも記憶成績が良くなり,従来の指示忘却効果と逆のパターンが示された。この結果は,顔刺激の感情価が指示忘却効果の生起に関わることを示唆する。