抄録
本研究では,非言語性の記憶とその学習過程を検討するために,顔を刺激とした記憶課題を作成し,アルツハイマー病(AD)群,軽度認知障害(MCI)群,健常高齢者群を対象に実施した.課題は,まず学習段階でターゲット刺激を記憶するよう求め,次にテスト段階でターゲット刺激と新奇刺激をランダムに提示し,学習段階で記憶した刺激か否かを再認させた.学習効果を検討するために,同じ手続きを3回繰り返した.ただし,1,2,3回目は学習直後にテストを行う即時再認であり,4回目は学習の30分後にテストを行う遅延再認とした.その結果,どの学習段階でも3群間に差がみられた.遅延再認の成績の低下にはFA率の低下が寄与することが示唆された.また,全体のパフォーマンスは健常高齢者群,MCI群,AD群の順に低下したが,学習効果は共通して示された.以上のことから,ADに至る顔記憶の変化をMCIの段階から検出できる可能性が示された.