抄録
仮想現実的な環境に適応する人間の能力において,どのような長期的学習メカニズムが関与しているのかよくわかっていない.本研究は,触感覚の錯覚が視覚的錯覚と連鎖的に生じるラバーハンド(RH)イリュージョン学習を3日間連続で行い,感覚間統合の錯覚学習における自己所有感と位置感覚の変容プロセスを検討した.その結果,全日において,学習後にRHへの自己所有感の増加および位置感覚のドリフトが認められ,従来のRHイリュージョンを再現する結果となったが,自己所有感のデフォルト(学習前)評定値は日毎に低下し,位置感覚のデフォルト評定値は日毎に増加した.連日の錯覚学習はRHに対する自己所有感の錯覚を低下させるが,位置感覚の錯覚を増強することが示唆された.矛盾した感覚を引き起こす仮想現実的な環境では,自己所有感と位置感覚の長期的学習メカニズムに異なる神経可塑性プロセスが関与していると考えられる.