抄録
幼児期の想起状況と幼児期健忘の関係を探るため,7人の子どもを1,2歳頃から小学校入学頃までの5,6年間追跡した事例研究により,日常的な印象に残る出来事の想起の変遷過程について,記憶に関わる3つの言語的指標との関連から検討した。その結果,3つの指標に区切られた時期ごとの想起数の分析から,「記憶語の自発的使用の開始時期」以降の想起量がそれ以前よりも有意に多いことが示された。また,経過時間を考慮した記憶保持期間の分析から,「言語的再認開始時期」もしくは「記憶語の自発的使用の開始時期」以前に経験した出来事より,それらの時期以降に経験した出来事のほうが,後々まで想起されやすいことが示された。これらの結果に基づくと,「言語的再認開始時期」や「記憶語の自発的使用の開始時期」頃から,顕著な発達的健忘が生じている可能性が推測されるが,発達的健忘が生じる過程についてはさらなる検討が必要である。