抄録
水野・松井 (2012a, b) は,単語の文字数,モーラ数を操作し,日本語母語者の単語のメモリスパンへの視覚情報と音韻情報の影響を調べた。その結果,作業記憶に単語を保持する際にメモリスパンが比較的大きい参加者は視覚情報に,小さい参加者は音韻情報により大きく依存することが示唆された。我々は,他に類を見ないほど多くの同音異義語が存在する日本語の単語を処理・保持する際には視覚情報に依存する方略の方が有利で,音韻情報に依存する方略は不利なのではないかと考えた。そこで本研究では,同音異義語のある単語とない単語を,音韻情報だけに依存して処理させるために聴覚提示し,両者のメモリスパンを測定・比較した。その結果,同音異義語のある単語のメモリスパンはない単語より有意に少なく,音韻情報に依存する方略は同音異義語の多い日本語単語の処理と保持には不利であることが確認された。