本研究は運動物体の接近回避行動が対象への生物性認知や選好に与える影響を検討した。刺激は黒円図形を用いて,物体運動の進行方向変化の方向(接近,回避,統制)と回数(1,3,7),タイミング(一定,ランダム)を操作した。その結果,変化回数の上昇に伴い生物性評価は上昇し,好意度評価も同様に上昇した。松田ほか(2013)の先行研究同様に,生物性認知の生起により対象への注意が喚起され,能動的に注視することで好意度評価の上昇に影響したと考えられる。また,接近行動による生物性評価の上昇も見られ,接近行動への注意喚起によって好意度評価に促進的影響が見られた。さらに回避条件では,生物性認知の生起に関わらず遠ざかる運動に対して能動的に追視することで,好意度評価に対して促進的に影響することが示された。これらの結果は,刺激に対して能動的に目を向ける行為に選好を生じさせる要因が存在することを示唆している。