抄録
形態素の処理を検証したプライミング実験では、接辞つきの語が、それぞれの形態素に分解されるかどうかが検討されている。語幹と活用語尾が別々に心的辞書に貯蔵され処理されるならば、過去形を呈示した場合に各形態素が活性化され、基本形に対する反応が促進されると考えられる。本研究では、テスト条件(過去形プライム)と同一語形をプライムとした場合(同一条件)、関連のない語をプライムとした場合(非関連条件)の3条件を設定し、語彙性判断課題を行った。対象者は大学生15名で、刺激には活用規則の複雑さとタイプ頻度の異なる動詞3タイプ(eru, ru, ku)を用いた。反応時間を分析した結果、動詞タイプによる違いは見られず、弱いプライミング効果(同一>過去形>非関連)が確認された。したがって、過去形を呈示された場合には語幹と活用語尾への分解が行われるが、同時に心的辞書には活用形自体も貯蔵されていることが推測される。