本研究では,一時的に統語構造の曖昧性が生じるため,一般に処理の際により多くの認知的負荷がかかるとされる日本語関係節構文の処理において,そのような曖昧性の解消を促進すると考えられる意味的情報および読点(カンマ)の効果について,文処理研究においてこれまでほとんど用いられることのなかった瞳孔径を指標として検討した。瞳孔径は高度な認知的処理にかかる負荷の量を直接的に反映して変化することが知られている。実験の結果,意味的情報・カンマがいずれも無い条件と比較して,意味的情報・カンマのいずれかもしくは両方が有る条件では曖昧性が解消される領域での瞳孔径の変化量が小さく,これら二つの情報はそれぞれ曖昧性の処理にかかる認知的負荷を軽減させる効果をもつことが示された。また,意味的情報とカンマの間の交互作用が確認され,我々は少なくとも処理水準の異なるこれら二つの情報を独立して用いていないことが示唆された。