抄録
人々は自伝的記憶をしばしば語り直すことをしている。本研究では,ネガティブな経験をポジティブに語り直すことが,記憶の内容と想起後の気分にどのような変化をもたらすか検討した。
実験は4つのセッションに分かれていた。参加者(N=16)には,まず初めに原語りとして受験生活をテーマに,予備調査で選定した記憶概念の単語10個を使用しながら,自由に思い出を語ってもらった。その後,転換的語り直し条件(N=8)と単純反復再生条件(N=8)に分かれ,条件に従ってそれぞれ思い出を語ってもらい,それをもう一度繰り返した。そして最後に,その1週間後,先週話してもらった原語りの内容を再び記憶の概念を使いながら語ってもらった。
その結果,転換的語り直しを行うことで,もとの記憶に対するポジティブな要素が増加することが分かった。また,単純反復群よりも転換的語り直し群の方が原語り再生時に気分変容が生じることが分かった。