本研究では、出来事の忘却に関する認識が記憶特性にどのような影響を与えるのか検討した。調査対象者は、高校時代の行事に関する出来事を1つ選び、その出来事そのものと想起時の記憶特性、その出来事を忘れることについてどのように感じるのかを評価した。分析の結果、忘却に関する認識は抵抗感と喪失感の2因子に分かれた。忘却に対して喪失感を抱いているほど、出来事の自己象徴性は高くなることが明らかになった。しかし、喪失感は出来事および想起時の感情価の良さに影響を与えていなかった。このことから出来事の忘却と自己の関連性を認識していても、必ずしも出来事そのものをポジティブなものとして捉えるわけではないことが示唆された。