これまで、嗅覚における言語隠蔽効果の研究はほとんどなされておらず、伊東(2014)のみである。その研究では、一部のカテゴリー(「花」)のみこの効果が得られた。しかし、言語的遮蔽効果に影響を及ぼすことがすでに報告されている再認選択肢間の類似性(Kitagami, et al, 2002)が、伊東(2014)では統制されていなかった。本研究ではまず、熟知度と類似度を統制した刺激を用いて、嗅覚刺激において言語隠蔽効果が見られるかを検討した。その結果、言語隠蔽効果の有意傾向が認められた。ターゲット刺激とディストラクター刺激間の類似度別に分析した結果、類似度が高い時のみ言語隠蔽効果が見られた。以上から、嗅覚刺激を言語化することで再認記憶が阻害される傾向があること、特に刺激間の類似度が高い時にその効果が有意であることは、匂いの識別に適切なグローバル処理モードから言語化によるローカル処理モードへのシフトによって起こったと考えられる。