抄録
本研究の目的は,observation inflation (OI),すなわちある行為を実際に行わずとも,他者がその行為を遂行する様子を観察すると“自分で行った”と判断するという現象に及ぼす観察の意図性の効果を検討することであった。54名の大学生が実験に参加した。実験は,行為文を実演/音読する記銘段階,他者の行為を視聴する観察段階,2週間後に記銘段階の項目についてのソーステストを実施する再認段階の3段階で構成した。観察段階において,他者の行為を観察する際,“画面中央の人物が何をしているか”に注目する意図的観察条件と,“背景映像に出てくる物体”に注目する非意図的観察条件とを設定し,参加者の観察の意図性を操作した。実験の結果,意図的観察条件でのみOIが再現されたことから,行為の虚記憶の生起には参加者が対象の行為を“見よう”という意図を持って見ることが重要であると考えられる。