抄録
本研究は,抑制機能の役割から展望記憶のメカニズムを明らかにすることを主な目的とした。近年Utsumi & Saito (2016)が,ある情報の想起に基づく抑制制御は非焦点的な手かがりによる展望記憶想起を損なわせることを示した。一方この抑制は,手がかりが焦点的である場合の自動的な展望記憶想起を損なわせなかった。本実験は,これとは別の抑制メカニズム,すなわち反応抑制が自動的なイベントベースの展望記憶想起を低下させると仮定し,この検討のために実行/抑止課題(go/no-go task)を用いてイベントベースの展望記憶手がかりを操作した。結果としてこの抑止課題による操作は,手がかりが焦点的となる展望記憶課題において展望記憶想起を抑制した。しかしこの結果は,手がかりが非焦点的となる展望記憶課題では得られなかった。これらの結果は,展望記憶課題における手がかりの焦点性によって機能する抑制メカニズムが異なることを主張した。