抄録
ナビゲーションにおける空間的手がかりの利用の個人差を検討するために,ヴァーチャル環境においてルートの映像を呈示した後に,そのルートの記憶に関するいくつかのテスト課題を実施した.テストでは,ランドマークやシーンの記憶,場所の系列情報,環境内の地点の方向を問うた.被験者を主観的な方向感覚の質問紙の得点によって二分し,それらの間でテスト課題のパフォーマンスを比較した結果,主観的方向感覚高群において,シーンの再認のパフォーマンスが低群よりも高かった.しかし,系列的知識や,地点間の方向を問う課題では,パフォーマンスの違いは認められなかった.このことは,空間認知能力を高く自己評価する人は,低く見積もる人よりも,ランドマークを取り巻くシーンへの感受性が高いが,空間的マッピングに関わる能力においては違いがないことを示唆している.