抄録
人は日常生活の中でしばしば聞き間違いをする。聞き間違いの原因として,意味的文脈,背景雑音,音声の明瞭性(単語をどの程度はっきり発音したか)が考えられる。本研究では,SN比が異なる条件下において意味的文脈と音声の明瞭性の違いが音声単語知覚に及ぼす影響を検討した。実験音声は女子大学生1名の発話音声をPraat(Boersma & Weenink, 2015)で再合成したものを用いた。音声の明瞭性を変えるために原音声の文頭の単語を3モーラ語から2モーラ語へ5段階変化させ(標的音声),2モーラ語あるいは3モーラ語にのみ有意味,両モーラ語に有意味の3種類の後続文脈をつけた。その後,それらの音声とカフェテリアノイズのSN比を操作した(±0dB,-5dB,ノイズなし)。本研究の結果,音声の明瞭性やSN比によって,文脈を手がかりとした音声情報の補完の程度が異なる可能性が示唆された。