抄録
対象を記憶する際,聴覚情報のみの記銘より,視聴覚のように二つのモダリティを用いて記銘した方が,記憶成績が良いことが知られている(福田・四日市,1992)しかし視覚情報が表す対象が一意ではない場合,記憶にどのような影響が生じるかは不明な点が多い.本研究では,表す対象が一意とならない視覚情報として形式ジェスチャに着目し, ジェスチャの有無が記憶成績へ影響を与えるか検討した.実験では会話中に,6つの固有名詞が聴覚提示され,3つの固有名詞は,その形状を表した形式ジェスチャも視覚提示された.その後,固有名詞およびジェスチャの記憶課題を行った.その結果,ジェスチャを伴った方が伴わなかった場合に比べて,固有名詞の記憶成績は高かったが,固有名詞の想起の有無によるジェスチャの記憶成績には差は見られなかった.これより,ジェスチャは,それ自体の想起の有無に関わらず,固有名詞の記憶成績を促進する事が示唆された.