抄録
境界拡張(boundary extension)とは,写真の記憶を想起する際に,記銘したオリジナルの写真の境界線を越えた領域までも想起してしまう現象である(Intraub & Richardson, 1989)。西山(2013)は学習―テスト間に想起を伴う課題を行い,保持段階における記憶表象の変容が境界拡張に影響を及ぼす可能性を示した。そこで本研究は,学習―テスト間に写真の再認判断および好意度評定を求め,これらが境界拡張に及ぼす影響について検討を行った。その結果,再認による影響はみられなかったが,好意度評定条件において統制条件よりも有意に大きな境界拡張が生じることが示された。単純接触効果からも示唆されるように,好意度評定には保持されている記憶が意識的・無意識的に利用されると考えられる。したがって,本研究により保持段階における記憶表象の変容が境界拡張の一因となっている可能性が示されたといえる。