抄録
空間的視点取得とは,自分とは異なる視点から見た物体の空間的位置関係を把握する認知過程である。武藤・松下・森川 (2015) は,円卓の風景刺激を用いた空間的視点取得課題の際に,取得する視点の位置と同じ側の足を前に出して反応すると,反対側の足で反応した時よりも反応時間が短くなること(視点・反応一致性効果)を発見した。この視点・反応一致性効果のメカニズムを明らかにするために,本研究は風景刺激の提示位置(左または右)を操作して同様の実験を行った。実験の結果,反応に使う足と同じ側に刺激が提示された時には視点・反応一致性効果は認められなかったが,反応に使う足の反対側に刺激が提示された時には視点・反応一致性効果が認められた。この結果は,視点・反応一致性効果が刺激反応適合性や感覚運動干渉では説明できないことを示しており,空間的視点取得の際に全身移動のシミュレーションが行われるという仮説を支持している。