ポジティブな自伝的記憶を自ら意図的に想起することは不快な気分の改善をもたらすが,抑うつ者においては気分の改善が生じず,むしろ気分の悪化にすらつながることが知られている。記憶の想起には,意図的な想起だけでなく,思い出そうという意図なく記憶の想起が生じる無意図的想起と呼ばれる想起形態もある。この無意図的想起に関しては,ポジティブ画像を無意図的に想起した場合には抑うつ者は気分の改善が生じることが示唆されている。しかし,ポジティブな自伝的記憶の無意図的想起が抑うつ者の気分改善につながるかは明らかとなっていない。そこで本研究では,抑うつ傾向者において,ポジティブな自伝的記憶を意図的または無意図的に想起した場合に,気分改善への影響が異なることを実験的に明らかにすることを目的とした。実験の結果,抑うつ傾向者は無意図的想起によってのみ気分の改善につながることが明らかとなった。