抄録
本研究は,矛盾する陰謀論の同時保持と分析的思考の関連性について検討した。先行研究では,核となる陰謀論(権力による情報隠蔽)を統制することによって,互いに矛盾する陰謀論同士の関連性は消失することが指摘されているが,我々の先行研究 (眞嶋他, 2021) では,核となる陰謀論の影響を統制しても,両者の関連性は残ることが示されている。そこで,本研究では,矛盾する信念の同時保持に,分析的思考傾向の低さが関連する可能性を検討することを目的とした調査を行った。199名が参加した調査の結果,矛盾する陰謀論の同時保持傾向と分析的思考の間に負の相関が見られたものの,核となる陰謀論信念を統制した後では,同時保持と分析的思考の間の偏相関係数は有意ではなかった。分析的思考が必ずしも非合理な信念を抑制するわけではないという結果は,信念の背後に動機づけられた推論があるとする知見と整合すると言える。