抄録
Kambara (2017; 神原, 2021)は,錯視経験が他者に対するバイアスの自覚を促進することを示した。それは自己の判断の客観性に疑義を生じるためと考えられた。そこで,錯視経験が客観性の自己評価を低下させ,自己概念を不明確に感じさせ,知性と優しさの自己評価についての確信を低下させるか検討した。実験参加者は大学生109人だった。実験は集合状況で実施された。実験群では錯視画,統制群では錯視画に類似した非錯視画が,それぞれ3種類ずつ呈示された。その後,操作確認項目と各従属変数項目の回答を求めた。分析の結果,自己概念明確性のみ,実験群は尺度中点を下回り,統制群は尺度中点程度という,仮説を支持する傾向が認められた。操作確認の結果は錯覚感,その驚きともに実験群のほうが統制群よりも高かったが,錯視経験の効果は限定的だった。客観性や自己評価の測定項目の妥当性についてさらなる検討が必要と考えられた。