抄録
記憶には忘却など、様々な負の側面が存在する。しかしながら、実世界の環境の性質や人間の認知的制約を考慮すると、負の側面を適応的なプロセスとして理解できる可能性が指摘されている。本研究では、記憶の負の側面の一つである誤りに注目し、それが生み出されるプロセスについて分析を進めた。具体的には、実世界の対象に対して持つ誤った記憶(例:横浜市に高等裁判所が存在すると判断する)のパターンと環境の確率的性質(例:どのような都市に高等裁判所が存在する確率が高いか)の関係を分析した。結果として、誤った記憶が生じるパターンは一定ではなかった。また、誤りのパターンは実世界の確率的性質と高い相関が存在していた。以上から、実世界で生じている記憶の誤りは不確実性が高い状況における人間の適応的確率推論から生じている可能性が示された。