抄録
運動制御は,自分が今どの対象を操作しているかの判断(主体感)に依存するが,それらのメカニズムはこれまで独立に研究されてきた。また従来の主体感研究では,あるイベントが生じた後で,それが自分によって引き起こされたものかどうかを回顧的に判断させていたため,運動中の主体感は捉えられてこなかった。本研究では,運動制御課題中の主体感の変化と役割を検討するため,実験参加者が制御する真のカーソルと同時に,コンピュータが制御し,自動的に移動する偽のカーソルを提示した。参加者はどちらが自分の制御するカーソルなのかを判断しつつ,ターゲットに近づけることが求められた。ここで,参加者があるカーソルを自分のものと見なしている場合に実行されるであろう運動をモデル化し,実際の運動軌跡に当てはめることによって主体感を推定した。結果,オンラインな主体感の定量化とそれに依存した運動制御メカニズムの根拠を得ることに成功した。