抄録
認知症患者と介護者のコミュニケーションの困難さを理解する上で、表情認知は重要な要素の一つである。従来より認知症患者の表情認識能力に焦点を充てた研究が多いが、介護者の表情認識能力に着目した研究は少ない。過去の研究で高齢者の表情筋の動きの減少に伴う感情強度の低下やマスク着用による顔の一部遮蔽は、無操作の表情よりも健常者の表情認識精度が低下することがわかっている。しかし、どの程度の表情強度やどのような遮蔽条件が健常者の表情認識精度に影響を与えるのかは十分にわかっていない。本研究では、認知症患者と介護者のコミュニケーションの理解への第一歩として、高齢者の顔表情の①表情強度および②部分的な遮蔽による操作が健常者の表情認知に与える影響を調べた。低い表情強度の条件において、幸せの表情は怒りや悲しみの表情よりも表情認識精度が低下した。また、口又は目を遮蔽した表情は遮蔽しない表情よりも表情認識精度が低下した。