抄録
ラバーハンド錯覚は,感覚間に同期した刺激を付与することによって,所有感の変調を誘発するものである.我々は,こうした錯覚原理を適用するものとして,自分と他人の指を近接空間で同期的に触れることで,自他の指が接合したような感覚が得られることを報告している(ダブルタッチ錯覚:小鷹他,2021).本研究では新たに,同一人物の左右の指の同じ部位への同期的な刺激,つまり自己の両側身体へのダブルタッチがどのような身体の変調を生むかを検証する.両側身体への刺激を与えることで身体感覚を変調させる錯覚の一例に,ベルベットハンド錯覚がある.我々の仮説では,この錯覚に特徴的な触感は,ダブルタッチ錯覚と同様に,両者の身体部位が相互に融合/接合したような感覚に伴う副作用であると考える.加えて,このような接合感覚が生起する要因として,両側身体であること及び近接空間であることが重要だと考える.本稿では,被験者実験により以上の仮説について検証を行うことを目的とする.