2025 年 22 巻 1 号 p. R003-
水素原子の反物質である反水素原子の低温での合成が可能になり,物質と反物質の対称性を検証する精密分光実験が行われている.対称性検証のさらなる精度向上や,物質-反物質間重力相互作用の検証のためには,極低温の反物質生成が重要である.電子と陽電子が結合したポジトロニウムと反水素原子の組替反応によって反水素正イオン(反陽子と二つの陽電子からなる三反粒子系)を合成できれば,物質正イオンとの共同冷却後に電離させることで極低温の反水素原子として利用可能である.本稿では,ポジトロニウムと反水素原子の衝突による反水素正イオン生成反応と,これに競合する非弾性散乱過程について,筆者らが行ってきた四体系多チャンネル組替散乱の理論研究を解説する.