抄録
「うすくちしょうゆ」が,古くは「うすしょうゆ」と呼ばれていたことを明かにするため,明治,大正,昭和初期の料理本93冊を調査した。「うすしょうゆ」の解釈は3タイプ存在し,3冊が「うすくちしょうゆ」(タイプ1)を示唆し,4冊が「だし」で希釈した醤油(タイプ2),1冊が水で希釈した醤油(タイプ3)であると定義していた。大正の中頃から昭和初期にかけて醤油の使用量が記述されたレシピが増加したが(1916年以前;0,以後;88),それと並行して「うすしょうゆ」の出現数が減少し(1916年以前;203,以後;88),「うすくちしょうゆ」が増加した(1916年以前;5,以後;88)。
材料の使用量を記述した同時代の3冊の料理本に出てくる「うすしょうゆ」8例が,レシピの記述内容や料理の食塩濃度の推定によりどのような醤油か評価可能であった。それら「うすしょうゆ」の1例は「うすくちしょうゆ」と同義語であり,7例が「うすくちしょうゆ」(タイプ1の「うすしょうゆ」)であろうと考えられた。これにより,「うすくちしょうゆ」の古い名称は「うすしょうゆ」であると結論づけた。
「うすしょうゆ」という用語の曖昧さが「うすしょうゆ」から「うすくちしょうゆ」への名称の変化につながったと考えられた。