日本調理科学会誌
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48 巻, 1 号
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総説
報文
  • 大喜多 祥子, 花﨑 憲子, 和田 淑子, 倉賀野 妙子
    2015 年48 巻1 号 p. 9-17
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/03/06
    ジャーナル フリー
    ビスケットの品質・嗜好性に及ぼすパラチノースの影響を検討するために,砂糖と置換するパラチノースの代替率を様々に変えたビスケットを調製し,生地の物性,焼成品の形状・官能評価,保存時の吸湿性を比較した。その結果,パラチノース溶液で調製した湿グルテンは砂糖に比べて圧縮時の応力値,エネルギー値ともに大きかった。ビスケット生地でも同様であった。したがって,生地調製時に形成されるグルテンの性状の相違が,生地物性に反映したと推察した。パラチノースは生地焼成時に垂直方向に大きく膨張させるため,焼成品は直径が小さく,厚さが大であった。パラチノースのみのビスケットは甘味が弱く,硬く,外観・甘味・風味が好まれず,総合的に好ましくないと評価された。パラチノースの代替率を60%にすると嗜好性が顕著に改善し,50%にすると砂糖のみの製品と変わらない嗜好性評価を得た。パラチノースのビスケットは,砂糖のビスケットに比べ水分活性が低いことから,保存性や物性変化の面で利用効果が期待できた。
  • 冨田 晴雄, 坂本 薫, John Henderson, 竹森 利和
    2015 年48 巻1 号 p. 18-25
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/03/06
    ジャーナル フリー
    充分に糊化された米飯の構造とテクスチャーとの関係を明らかにするため,4種類の浸漬時間の異なる浸漬米(10℃ 0分,20分,60分,120分)を調製し,同一条件で炊飯した米飯の構造や物性を評価した。SEMでの米飯の割断面構造観察から,割断面表層付近には多孔質構造があり,最表面には緻密な層が確認できた。浸漬時間が長くなるにつれ,多孔質構造が徐々に拡大し,緻密層は120分で急激に厚くなることが分かった。また,テクスチャー試験から,浸漬時間が長くなるほど弾性率が小さくなり,破断エネルギーや粘性率も60分まで減少後,120分で増加に転じた。多孔質構造とテクスチャーとの相関を定量評価するため,画像解析により多孔質構造の孔の平均面積を求めたところ,浸漬米の水分率や弾性率と高い相関を示すことが分かった。
    以上の結果より,従来の糊化度評価では差がない炊飯米において,構造と破断エネルギーや弾性率といったテクスチャーとの関係を示すことに成功し,構造観察から食感を推察できる可能性を示した。
ノート
  • 橋場 浩子, 牛腸 ヒロミ, 小見山 二郎
    2015 年48 巻1 号 p. 26-30
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/03/06
    ジャーナル フリー
    豚ロースブロック肉中の食塩の拡散挙動を調べた結果,大根,凝固卵白,豚肉,ジャガイモ中の食塩の拡散に比べ食塩が浸透しにくいという結果が得られた。そこで,浸透がしやすい豚ロースミンチ肉を調製し,SEM観察を行った。ミンチ肉の筋線維が破壊されており,拡散プロファイルは他の食材のそれに近づいた。二元収着拡散理論を適用して,NaClのラングミュアー型および分配型の熱力学的拡散係数,DT(L)とDT(p)を求めたところ,ミンチ肉はブロック肉の約2倍大きいことがわかった。これらの結果に基づいて,ミンチ肉とブロック肉の感覚に及ぼすミンチの影響を官能評価により比較した。これら2種の豚ロース肉の官能評価の結果,2点識別法ではミンチ肉はブロック肉に比べて,有意に色が明るく,塩味が強く,軟らかかった(p<0.01)。これらの結果は色度測定,塩分測定,テクスチャー測定の結果に対応していた。2点嗜好法では,軟らかさに対する好ましさでミンチ肉が有意に好まれた(p<0.01)。以上の結果から,組織構造が煮物の味やおいしさに関与することが示唆された。
  • 桒田 寛子, 寺本 あい, 治部 祐里, 田淵 真愉美, 石井 香代子, 渕上 倫子
    2015 年48 巻1 号 p. 31-38
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/03/06
    ジャーナル フリー
    レモンの外果皮は,香りはよいが硬い。本研究の目的は,クエン酸処理,高圧処理,加熱処理した際のレモン外果皮の軟化度を明らかにすること,および高圧処理法によるレモンマーマレードの製造法を確立し,加熱処理法と品質の比較を行うことである。スライスした外果皮をpH 2.0のクエン酸溶液に1日浸漬し,中果皮,内果皮,果肉は磨砕してpH 2.5の同溶液に1日浸漬した。これらを混合し,グラニュー糖を55%添加した後,真空包装し,500 MPaで30分高圧処理,または100℃で10分加熱してマーマレードを製造した。外果皮をpH 2.0~2.7のクエン酸溶液に浸漬すると,pHが低くなるにしたがって軟化が促進した。高圧処理すると生に近い硬さであった。高圧処理法のマーマレードは加熱処理法と比べて,外果皮が硬く,⊿Eが小さく,色の変化が抑制されたが,ゼリー部の粘性,官能評価の苦味に有意差はなかった。高圧処理法は色,香りの項目で有意に評価が高く,生の果実の色や香りを残す点で好ましい評価であった。
資料
  • ―明治,大正,昭和期の料理本の調査―
    牛尾 公平
    2015 年48 巻1 号 p. 39-48
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/03/06
    ジャーナル フリー
    「うすくちしょうゆ」が,古くは「うすしょうゆ」と呼ばれていたことを明かにするため,明治,大正,昭和初期の料理本93冊を調査した。「うすしょうゆ」の解釈は3タイプ存在し,3冊が「うすくちしょうゆ」(タイプ1)を示唆し,4冊が「だし」で希釈した醤油(タイプ2),1冊が水で希釈した醤油(タイプ3)であると定義していた。大正の中頃から昭和初期にかけて醤油の使用量が記述されたレシピが増加したが(1916年以前;0,以後;88),それと並行して「うすしょうゆ」の出現数が減少し(1916年以前;203,以後;88),「うすくちしょうゆ」が増加した(1916年以前;5,以後;88)。
    材料の使用量を記述した同時代の3冊の料理本に出てくる「うすしょうゆ」8例が,レシピの記述内容や料理の食塩濃度の推定によりどのような醤油か評価可能であった。それら「うすしょうゆ」の1例は「うすくちしょうゆ」と同義語であり,7例が「うすくちしょうゆ」(タイプ1の「うすしょうゆ」)であろうと考えられた。これにより,「うすくちしょうゆ」の古い名称は「うすしょうゆ」であると結論づけた。
    「うすしょうゆ」という用語の曖昧さが「うすしょうゆ」から「うすくちしょうゆ」への名称の変化につながったと考えられた。
  • 田原 美和, 森山 克子, 東盛 キヨ子, 金城 須美子
    2015 年48 巻1 号 p. 49-56
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/03/06
    ジャーナル フリー
    沖縄の代表的な祖先祭祀の一つである清明祭の伝来の経緯や行事食の変遷を概観し,併せて,日本調理科学会特別研究「行事食・儀礼食」調査の結果を世代別(若年層30代以下,中高年層40~80代)で比較しながら,清明祭の行事食が若い世代に受け継がれているのか考察を行った。沖縄の清明祭は,18世紀には中国の渡来人の集落(久米村)で執り行われており,その後,首里王府,士族,そして庶民へと伝わっていった。主な供物として,国王墓や久米村では,中国の三牲に倣ったウサンミ(御三味=豚・鶏・家鴨・魚など)を供えていたが,近年は,伝統を守っている所もあるが,大方その素材を用いた重箱料理に簡略化している。アンケート調査の結果,清明祭の認知度,経験の状況はいずれの世代も高い。行事の供物である重箱料理は,以前は手作りをしていたが,現在は一部既製品を利用する,購入するなどの割合が多くなり外部化傾向がみられる。こうした状況から,若い世代は清明祭の概要について認識はしているが,食材や調理の知識や体験が少なく,次世代への伝承が危惧される。今後は,調理技術や家庭の味を守り,受け継ぐために,清明祭の意義を理解させ,家庭や地域,教育機関等で行事食の習得を促進するなど,積極的に関わる必要があると考える。
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