本研究では,パン生地に添加する油脂の量や種類を変えることで,焼成したパンやクラムから調製した模擬食塊の特性がどのように変化するのかを調査した。小麦粉の重量に対して0~15%の範囲内でバターを加えたパンと,添加量を5%に固定してマーガリン,ショートニング,牛脂,ラード,ココナッツオイル,キャノーラ油を用いたパンを焼成した。焼成したパンは体積,重量,水分含量,クラムの物性を測定し,加えて粉砕したパンクラムに人工唾液を混ぜて模擬食塊を作り,その物性を測定した。その結果,バターを5%添加すると,焼成したクラムと模擬食塊は柔らかくなったが,それ以上添加量を増やしても模擬食塊の物性は改善しなかった。油脂の種類の比較では,固形の脂は液状の油と比較してパンの体積を大幅に増加させ,クラムを柔らかくした。固化させたキャノーラ油と液状のキャノーラ油を使ってパンを焼成して比較した結果,固化したキャノーラ油は液状のキャノーラ油よりも有意にパンを膨張させたが,クラムの硬さには差がなかった。
山梨県の郷土料理ほうとうがどのように伝え継がれてきたかを知るために,資料調査,聞き書き調査およびアンケート調査を行った。近代の山梨県では,ほうとうの呼称は地域により異なった。ほうとうは一年を通して日常の夕食の主食であり,好まれていた。麺や味噌は自家製で,副材料は自給の野菜,いもやきのこであった。昭和35年から45年頃は,高度経済成長を契機に従来のほうとう食が変化し始めた。現在は,ほうとうの呼称は標準化傾向である。ほうとうは冬期の日常の夕食の主食の一つであり,好まれている。ほうとうの多くの材料は市販品であり,ほうとう調理は簡便化している。また,副材料に油揚げが定着し,豚肉が加えられるようになり,現在のほうとうは栄養豊富である。以上,ほうとう食は時代に応じて変化しながら現在に受け継がれていることが分かった。
広島県芸北山間地域の2地域,中部台地の1地域に,30年以上居住し家庭の食事作りに携わってきた60~70歳代の女性5名を対象に,昭和30~40年代の家庭料理について,平成25・26年に聞き書き調査を行った。
本報告では,3地域で伝え継ぐ料理として挙げられた「田植え食:さんばいさん」とその伝承方法の事例を報告した。同時に,広島県内の各自治体の歴史資料から,さんばいさんに関する記載事項を確認した。3地域の「さんばいさん」では,「丸いきな粉むすび」や「朴葉に包んだ豆飯」,「ちしゃもみ」が供された。「さんばいさん」は,広島県では,福山地域を除く自治体の歴史資料で確認できた。資料では,さんばいさんを田んぼで食べる,「しろみて」のとき食べる等食べ方や料理内容の相違がみられた。さらに,実践場面における教育効果に基づき,さんばいさんのような家庭料理を次世代へ伝承するためには,地域と連携して学校給食を生きた教材として活用することが有効な方法のひとつであると考える。