岡山県でサワラ(Scomberomorus niphonius)とサヨリ(Hyporhamphus sajori)の食習慣が形成されている。その証拠として両魚は『魚類特別調査』で,岡山県が最も食べる魚となっている。一方で江戸時代の料理書である「献立筌」を紐解くと,献立を作成する際にサワラの代替としてサヨリが充てられている。そこで両魚に着目して江戸時代に遡り代替の理由を調査した。二種は江戸時代の岡山藩の産物として認定され,後楽園の宴席でタイ(Pagrus major)やスズキ(Lateolabrax japonicas)に次ぐ高い格を持った魚として使用されていた。その調理法は,魚種毎にあるいは,使用階級,行事毎に確立されていた。
現代,両魚は岡山県が最多使用事例数を示し,その調理法はサワラでは焼き物が,サヨリでは刺身が最多であり,この調理法は昭和初期より継承されている。二種は漁獲量が多く,かつ品格を備えている魚であるため高身分階級の行事食へ利用された。つまり二種は各種の要因が複合し関連することにより利用され,その岡山県地方での食習慣を形成してきたと考えられる。