2020 年 53 巻 4 号 p. 246-254
煮物に油揚げを添加する伝統的な調理法の意義を検証した。大根の切り干しに添加した油揚げが煮物の総合的な嗜好性を有意に高めることを官能評価で確認した。「やみつきになりそうな味ですか」,「ついつい手が伸びるような味ですか」や「食べ慣れている味ですか」を問う質問に対して油揚げ添加の煮物が無添加に比べて高い評価値を示した。嗅覚を遮断した官能評価実験からこの効果には嗅覚と口腔内刺激の両方の寄与が示唆された。油揚げ製造に使われた菜種油の添加が苦味や辛味,癖の強さなどの好ましくない味わいを緩和し,「味わいに深みがある」,「味わいに厚みがある」,「香りに香ばしさがある」などの項目に対する評価値を高めた。一方,加熱した菜種油は切り干し大根の煮物の嗜好性の評価値をさらに高め,「食べ慣れている味わいである」の質問項目に対し高い評価を示した。加熱菜種油の加熱油脂に共通の香気成分が生成し嗅覚が食経験の記憶などを介して食べ慣れ感を付与した可能性が示唆された。