2022 年 55 巻 1 号 p. 1-10
江戸期及びそれ以前の書物に記載されている酢製造法を調査し,16冊の書物から33件の米酢製造法を抽出した。江戸期の米酢製造法では,現代と比べて汲水歩合が著しく低く,仕込み時期は夏が多く,仕込み期間は1週間から1カ月程度と短いものが多いという特徴がみられた。江戸期書物記載の方法による再現仕込み試験は,江戸期から伝統的製法で壺酢製造を続けている酢製造会社にて行われた。その結果,汲水歩合が現代と同様およそ300%の仕込みでは30日目以降に酢酸発酵を認められたが,汲水歩合がおよそ100~250%の仕込みにおいては,仕込初期に乳酸発酵で 1~2 g/100 mlの乳酸が生成され,9~13 g/100 mlという高いエタノール濃度となって酢酸発酵へは移行しなかった。江戸期には,乳酸を酸味の主体とする発酵物が酢として作られていた可能性が示唆された。