調理科学
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鉄剤添加クッキーの嗜好と化学的性状
宮川 和子和田 淑子高居 百合子
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1981 年 14 巻 3 号 p. 203-207

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抄録
貧血の予防を目的として食品衛生法で許可されている5種類の鉄剤,乳酸鉄,クエン酸鉄,クエン酸鉄アンモニウム,ピロリン酸第二鉄,塩化第二鉄を添加したクッキーを試作し,各種鉄剤がクッキーに与える影響を知るために,嗜好性,表面色,保存中の添加油脂のAV,POVの変化,鉄の利用面からの可溶性鉄量を測定し,クッキーへの添加鉄剤として良好な鉄剤の検討を行った.
1)5種類の鉄剤添加クッキーの嗜好性はピロリン第二鉄が外観,味,香り,舌ざわり,硬さ,総合評価のすべてに良好であり,塩化第二鉄は好まれなかった.
2)クッキーの表面色はピロリン酸第二鉄添加が明度,彩度共に高く,無添加クッキーに近い色調をしている.塩化第二鉄添加は明度,彩度共に最も低く,好まれなかった.
3)無添加クッキーと最も好まれたピロリン酸第二鉄添加クッキーとの間には,外観,香り,味,総合評価に危険率1%で有意差がみられ,少量でも鉄剤添加がクッキーの嗜好に影響を及ぼすといえる.
4)クッキー保存中における添加油脂に与える鉄剤の影響は,塩化第二鉄添加がAV,POV.共に最も高く,保存50日ではAVは他の添加鉄剤の2倍,POVは約10~20倍であった.ピロリン酸第二鉄添加はAV,POV共に無添加に近い値であった.また塩化第二鉄を除いた他の鉄剤においてもPOVは保存40~50日頃より増加の傾向がみられたが,その値は100日でも30以下であった.
5)鉄剤添加クッキー中の全鉄量に対する可溶性鉄量は,いずれの鉄剤も80%前後を示し,鉄剤による差はみられなかった.
以上のことから,ピロリン酸第二鉄が官能検査や油脂の酸化の面から他の鉄剤より良好であり,また鉄の可溶化の面においても他の鉄剤と差がなかったこと,等を考え合せると,貧血予防食としてクッキーを用いた場合の添加鉄剤としてはピロリン酸第二鉄が好ましい鉄剤であると考えられる.
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© 一般社団法人日本調理科学会
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