2020 年 53 巻 1 号 p. 26-38
ナラティヴ研究では,語り手と聞き手の語りの構築における共同性が重視されてきた。だが,カウンセリングにおいて共同性とは実際にどのように語りが共有される現象であるかは,明らかになっていない。本研究は,カウンセリングで生じる語りの共有プロセスを2者の相互作用に着目しながら記述的に検討することを目的とした。5組の模擬カウンセリングの実施後,ThとClそれぞれに「語りを共有する際に体験したこと」についてインタビューを行った。GTAにより得られたカテゴリー関連図からは,語りを共有する際の3つの段階(状況を取り入れる段階,共有する段階,共有による影響の段階)が明らかになった。ストーリーラインには2項関係から3項関係へ移行する様子が記述され,語りの共有は語りが共有されることのみが治療的なのではなく,「共有できた語り」と「未共有の語り」の間の境界線が明確になっていくことが治療の進展において重要な意味をもつことが示唆された。