近年の地域鉄道事業者の厳しい経営状況下において、路線廃止等の議論があるが、多くは利用者数推移など直接的な利用価値が評価軸となっている。しかし地域鉄道には、車窓風景や鉄道の走る風景による人々の認知を通じた存在価値的要素が内在しており、現況の評価軸と異なる視点による評価方法を模索することが重要であると考えられる。 本研究では、えちぜん鉄道三国芦原線を対象に、沿線自治体の都市計画の把握、車窓動画撮影資料による空間分析と利用者の印象的な車窓・沿線風景の把握を目的としたアンケート調査を実施する。車窓・沿線風景の現況と利用者の風景イメージを明らかにした上で、車窓景観が利用者にとって地域鉄道の重要な視点であることを考察し、今後の地域鉄道の存在価値検討の基礎的知見を得る。 空間分析では、3種類の景観要素から景観類型Ⅰ〜Ⅶが抽出された。アンケート調査では、利用者の約8割から印象的な車窓・沿線風景要素の回答があり、魅力的な風景要素を有していると言える。以上から、利用者が車窓景観を強く意識していることを示しており、車窓景観による鉄道と利用者との関係性は、地域鉄道の存在価値検討における重要な視点だと考えられることが明らかとなった。