千葉県立保健医療大学紀要
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第10回共同研究発表会(2019.8.28)
手の把持把握と把持(ピンチ)力調整能に関する定量化指標の検討
吉野 智佳子下村 義弘
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2020 年 11 巻 1 号 p. 1_60

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抄録

(緒言)

 日常生活を遂行する際,手指機能は重要な要因の一つである.鎌倉1)は手の把持把握を実用的に分類しており,物品の把持把握形態を写真の分析や16mmビデオに記録し,再生時に肉眼的観察によって分析している.その方法では把持把握形態や指関節の運動方向については分析が可能であるが定量的データとしては不十分といえる.芥川2)は深部感覚の影響により握り潰すなどの症状のある頚髄症患者と健常人のピンチ力調整能を定量的に測定しているが,運動と感覚の連関による把持力発揮のコントロール不良は可視化しにくい.今回の研究によって各指の個別性を可視化できれば,患者が自身の把持状態が発揮過剰なのか,把持力不足なのかを理解しやすくなる.また,芥川2)の評価システムはmmHg単位の独自システムであるため,様々な評価場面において比較しにくい現状が考えられる.

 本研究では,感圧測定システムを使用し,健常人のピンチ力調整能を測定することで手の把持把握に関する患者指導への検討を行うことを目的とする.

(研究方法)

 被験者はリハビリテーション学科学生20名(男性10名,女性10名)で,実験前に実験に関する説明を十分に行い,実験途中での中止を求めてもよい旨説明した.同意書にて全員同意の確認を行った.また,フェイスシートにより過去の活動経験(部活動や趣味活動など)について記載を依頼した.

 椅坐位にて机上での各物品の把持把握を行った.鎌倉1)の分類では大きく分けて握力把握系・中間把握系・精密把握系としており,さらに握力把握系では標準型・鈎型・示指伸展型・伸展型・遠位型,中間把握系では側面把握・三面把握(標準型・亜型Ⅰ・亜型Ⅱ),精密把握系では並列軽屈曲把握・包囲軽屈曲把握・指尖把握・並列伸展把握としている.それぞれの把持把握に対応する物品として,包丁,金槌,うちわ,軽いかばん,編み棒,千枚通し,受け皿,裁ちばさみ,ホッチキス,鍵,鉛筆,フリクション,テーブルスプーン,箸,盃,茶筒,画鋲,輪ゴム,ハンカチを用いて,その把持把握状態を90秒間測定した.測定には感圧測定システム(KS-SYS1A-2:キャノン化成(株)製)を用いた.感圧センサーは拇指・示指・中指・環指・小指の指腹に貼付し,各指基節骨部と手関節部をベルクロにて固定した.

 データ解析は,ピーク値を算出し,課題による把持の違いがみられるかなど各指(母指・示指・中指・環指・小指)について男女別に分析を行った.

(結果)

 各物品を把持した際の値の平均は,男性・女性の順で, 握力把握系の包丁で拇指103.5・111.1, 示指113.3・155.5,中指163.9・185.9,環指169.3・215,小指92.5・78となり,男女とも中指と環指,小指で高い値となった.中間把握系の鉛筆で拇指226.8・362.8, 示指259・305.3, 中指138.6・266.2, 環指35.5・18.9,小指16.5・4.2となり,拇指・示指・中指・環指で女性の方が高い値となった.精密把握系の盃で拇指196.4・272.7, 示指148.8・162.7, 中指121.8・162.3, 環指66.4・113,小指0・0となり,男女とも拇指・示指・中指で高い値となった.

(考察)

 握力把握系の物品では,中指と環指,小指にてパワーを発揮する把持を行っていた.特にバドミントン経験者ではよりその傾向が強かった.一方精密把握系の物品では,拇指・示指・中指での把握により把持物を精細に操作できる把持形態となっていた.

 被験者毎の把持状況より,極めて個別性が高く,平均値で結論づけることは妥当ではない.患者に対する指導においては各指の把持状況に応じ,個別性を考慮した指導が必要であると考える.本研究はそのような意味で寄与できると考えられる.

(倫理規定)

 本研究は,千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の承認を得て実施した(申請番号2018-15).本発表内容に関連して申告すべきCOIはない.

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