千葉県立保健医療大学紀要
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第13回共同研究発表会(2022.9.12~9.16)
視覚障害者における歯科保健行動についての実態調査
山中 紗都河野 舞
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2023 年 14 巻 1 号 p. 1_91

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抄録

(緒言)

 平成28年に実施された,生活のしづらさ等に関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)によると,視覚障害のある人は全国に約31.2万人と推計されている.

 視覚からの情報収集が困難である場合,自身の口腔内状況の観察が困難であるため,口腔内の状態が把握しづらいことはもちろん,変化する自身の口腔内に合った歯口清掃用品の選択・購入にも障害があることが予想される.また,歯科治療が必要になった際にも,歯科医院の選択から移動手段に至るまで,健常者と比較して受診までの準備にも時間を要することが考えられるため,定期的な歯科健診を受け,う蝕・歯周病予防への取り組みがより重要となると考えられる.しかし,視覚障害のある方を対象とした歯科保健行動の実態や,歯科受診に関わる問題についての報告は少ない.そこで,本研究では視覚障害のある方の歯科口腔保健行動の実態を把握し,基礎資料を得ることを目的とした.

(研究方法)

調査対象:視覚障害のある成人

調査方法:Microsoft Formsもしくは電子メールを用いて,歯口清掃習慣,歯口清掃用具の選択・購入について,かかりつけ歯科医の有無,定期歯科受診や歯科保健指導を受けた経験の有無の他,歯科受診の際の希望等をアンケート調査にて回答を得た.

調査期間:令和3年11~12月

分析方法:単純集計および,かかりつけ歯科医の有無とその他の項目についての関連についてMann-WhitneyのU検定およびχ2検定を行い,有意水準は5%未満とした.

(結果)

 104名の対象者から回答を得ることができ,そのうち本研究の対象者となる成人(20歳以上)の対象者103名の回答を分析の対象とした(有効回答率99.0%).アンケート回答者の内訳は男性58名(56.3%),女性45名(43.7%)で,20代10名(9.7%),30代14名(13.6%),40代21名(20.4%),50代26名(25.2%),60代16名(15.5%),70代以上16名(15.5%)となった.そのうち,全盲が55名(53.4%),光覚弁19名(18.4%),手動弁3 名(2.9%),指数弁12名(11.7%),その他(視力0.01以上等)14名(13.6%)であった.

 歯口清掃習慣としては,1日に2回磨くと回答した者が最も多く52名(50.5%)に次いで,3回以上29名(28.2%),1回21名(20.4%)となり,平成28年歯科疾患実態調査の結果(1回18.3%,2回49.8%,3回27.3%)と類似した結果となった.しかし,デンタルフロス(Dental Floss:DF)や歯間ブラシ(Inter Dental Brush:IDB)等の補助清掃用具の使用については,IDBの使用者34名(33.0%),DFの使用者31名(30.1%)と歯科疾患実態調査の「デンタルフロスや歯間ブラシを使って,歯と歯の間を清掃している(39.2%)」と比較すると少ない結果となった.

 歯ブラシ等の歯口清掃用具を自身で購入していたのは68名(66.0%)で,そのうち自分に合っている歯ブラシを購入することが困難な対象者は24名(23.3%)であった.その理由としては,「自分にはどのような歯ブラシが合っているかが不明である」(66.7%),「歯ブラシを購入する際に触れて購入することができない」(50.0%),「現在,市販されている歯ブラシについての情報がない」(37.5%)といった理由があげられた.また,定期的な歯科受診を受けている対象者は59名(57.3%)で,平成28年国民健康・栄養調査結果(52.9%)と比較してやや高い結果となった.

 かかりつけ歯科医の有無については,「ある」86名(83.5%)で,「ない」17名(16.5%)だった.かかりつけ歯科医が「ある」と回答した対象者は「ない」対象者と比較して歯科保健指導を受けたことがあると回答した者が有意に多かったが(p<0.05),歯科受診への抵抗感や歯ブラシ購入の際の困難さについては有意な差は認められなかった.

 歯科受診の際の希望としては,「問診票の代筆」「診療室内の案内」「治療前の説明」「治療中の説明」が多くあげられた.

(考察)

 視覚障害のある対象者の歯口清掃頻度は健常者と類似している事が明らかになったが,歯口清掃用具の購入や補助清掃用具の使用については,自身に合った歯ブラシに関する知識不足や,視覚障害があることが支障となっている事が推察された.

 一方で,定期歯科受診により自身の口腔環境の維持改善に取り組んでいる対象者が約6割を占め,歯・口腔への関心が高いことが示唆されたため,視覚障害のある対象者への歯口清掃用具の情報提供の充実やその方法について検討を図ることが望まれる.

 今後は,対象者の口腔内観察を踏まえ,さらなる分析を重ねていきたい.

(倫理規定)

 本研究は,千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号2021-19).

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