千葉県立保健医療大学紀要
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令和3年度学長裁量研究抄録
COVID-19により在学中の臨地実習に影響を受けた本学卒業生が入職後に感じる困難,ならびに学内で行われた総合実習に対する入職後の振り返り
内海 恵美田口 智恵美浅井 美千代三枝 香代子大内 美穂子坂本 明子真田 知子
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2023 年 14 巻 1 号 p. 1_98

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抄録

(緒言)

 本研究の目的は,COVID-19の感染拡大により,医療機関での臨床実習を中止せざるを得なかった本学卒業生を対象に,(1)新人看護師としてどのような困難を抱えているか,(2)学内代替実習(シミュレーション実習)として行われた総合実習が入職後の臨床の場でそのように活かされているか,の二つを調査し,臨床看護教育の内容や方法について検討する基礎資料とすることである.

(研究方法)

 研究デザインはいずれもアンケートによる量的調査とインタビューによる質的調査である.

 調査(1)は現在病院に勤務する2020年度本学看護学科卒業生を,調査(2)は前述(1)のうち総合実習を成人看護学領域で選択履修した者を対象とした.いずれもMicrosoft teams「2020年度看護学科卒業生」チームにて研究の概要を説明後,依頼文書をメールで送付した.調査(1)では,新人看護職員研修ガイドラインで新人看護職者の到達目標として示された全104項目のうち経験して困難さを感じた項目等,調査(2)では,印象に残っている演習とその理由,入職してから振り返ったり活用できている演習の有無とその理由,学内代替実習となったことの不利益が入職後にあったかどうか,等を調査項目とした.

 いずれも研究協力に同意した対象候補者がアンケートフォームにアクセスし無記名で回答・送信し,この送受信をもって調査に同意が得られたものとした.インタビューは日程調整し対面または遠隔で行い,同意を得て録音した.

(結果)

 調査(1)では9名から回答が得られ,うち3名の看護師がインタビューに応じた.「複数の患者の看護ケアの優先度を考えて行動する」「決められた業務を時間内に実施できるように調整する」の項目はCOVID-19前の研究*と同様困難を感じる人数の割合が高い.一方,「患者の理解と患者・家族との良好な人間関係の確立」6項目全てにおいて,困難を感じた人数の割合が増え,インタビューでも[患者の病状をコロナ禍で面会できない家族に説明できない]等のCOVID-19に関連した困難の内容が含まれた.

 調査(2)では3名の看護師から回答が得られ,うち1名がインタビューに協力した.全員が,入職後に活用できている演習は《複数患者の検温・報告》《多重課題》であったと回答し,“ 現在の仕事でもほぼ同じことをしているから” 等,実践的な内容であったと評価した.インタビューでは「優先順位の考え方」「重要度と緊急度」について,実習での学びを臨床で活用している一方で,学生同士で患者役-看護師の演習をしていたため,入職後は本当の患者とのコミュニケーションに戸惑いが生じていたと述べた.

(考察)

 調査(1)においては,COVID-19の影響により患者・家族とのコミュニケーションに困難をより感じている可能性があることが示された.また,COVID-19に関わらず,複数の患者の看護ケアや時間内での業務実施などの業務管理に困難を感じている傾向が明らかとなった.

 調査(2)では,シミュレーション実習は入職後も活用できる現実的な内容であり,リフレクションサイクルを意識した演習構成は自律的な学びを引き出した一方で,模擬患者や看護師からの学びが得られず,患者に対するコミュニケーション能力の育成が課題となったことが示された.

 以上から,社会情勢を加味して教育内容を検討する必要性,および患者・家族へのコミュニケーション能力の獲得機会を担保しつつ,実践的な学修が望ましいことが示唆された.

(倫理規定)

 研究者が所属する大学の研究等倫理審査委員会の倫理審査の承認を受けた(申請番号2021-14).

(利益相反)

 本研究内容に申告すべきCOI状態はない.

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