千葉県立保健医療大学紀要
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第14回共同研究発表会(2023.9.12~9.16)
新型コロナウイルス感染症による行動制限が施設高齢者の生活に与えた影響
工藤 美奈子佐々木 みづほ佐伯 恭子河野 舞室井 大佑成田 悠哉龍野 一郎
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2024 年 15 巻 1 号 p. 1_59

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抄録

(緒言)

 新型コロナウィルス感染症(COVID-19)や感染症対策に伴う行動制限は,高齢者の地域におけるコミュニケーションと社会活動を制限し,その結果として日常生活動作(ADL),認知機能,うつ病の発症を含めたメンタルヘルスを悪化させていることが危惧されている.千葉県民の健康づくり推進の一助となるべく「COVID-19が及ぼした地域高齢者の健康への影響」についての調査を実施したので結果を報告する.

(研究方法)

 千葉県内の特別養護老人ホーム・ケアハウス・介護老人保健施設の,全体の責任者であり総括的な役割を担う者(理事長・施設長(管理者・ホーム長)など)を対象に,無記名の自記式質問紙調査(郵送法)を行った.調査期間は2023年2月20日~2023年3月20日まで,対象施設は計456施設とし,アンケート質問用紙への回答と返信をもって同意を得たとした.質問項目は施設の基本データ関連7問,COVID-19が施設に与えた影響関連6問,COVID-19が職員の労働環境に与えた影響が1問,今後の考案等自由記載が1問の合計15問とした.

(結果)

 アンケート回収率は34%であった(特別養護老人ホーム74,ケアハウス35,介護老人保健施設45).

① クラスターの発生:全施設中78%で発生した.

② COVID-19の影響で制限した活動:ご家族との面会,外出,レクリエーション活動,施設内の行動範囲の順で制限が多く,自宅復帰,会話,個別の趣味活動での制限は少なかった.

③ COVID-19が利用者に与えた影響:全施設中70%以上の施設において,歩行移動能力等の身体活動量が低下した.また,表情笑顔,活気意欲,食堂の集団生活時間等の精神面関連項目においても70%以上の施設で低下が認められた.影響が小さく変化がなかった項目は,栄養状態77%や排泄能力73%であった.上昇した項目は,居室で過ごす時間,臥床時間テレビ鑑賞時間が挙げられた.

④ COVID-19による介護介入量と時間:増えたと変化なしがほぼ半数認められた.

⑤ COVID-19と利用者の機能:精神状態,認知機能,要介護度においてそれぞれ81%,73%,58%の施設で影響ありと回答した.

⑥ COVID-19による施設職員への影響:心理的負担と業務量においてそれぞれ98%,92%の施設で増加していることが認められた.身体的負担は89%,マンパワー不足は75%の施設で影響が認められた.

⑦ COVID-19流行前と比較した活動状況の回復度:ボランティア受け入れにおいては68%の施設で全く回復していないと回答し,流行前と同程度に回復したと回答したのは0.6%だった.

⑧ 自由記載欄:回答率は50%弱であった.イベントや面会の復活,今後の不安や現状困っていること,政府への要望の記載それぞれ全体の4割を占めた.

(考察)

 歩行移動能力や身体活動量の低下など身体的機能への悪影響と共に,精神状態・認知機能においても大半の施設で影響が出ていることが分かった.身体的機能低下が作用していることに加え,家族面会の中止や施設内での集団行動の減少などひととのコミュニケーションが激減し,精神面での変化が大きく影響していると考えられる.栄養状態や排泄能力は利用者の状態に変化がない傾向がみられ,基本的日常生活動作のうちの生命維持に必要な動作は影響を受けにくいことが考えられる.今回の調査から,COVID-19が高齢者施設の居住者と職員に大きな影響を与えたこと,また,現在でも影響を与え続けていることがわかった.今後は,施設別や職員の精神面ケアの問題も含め,更なる調査・分析を進める必要があると考える.

千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会

承認2022-18

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